2008年03月28日

立原正秋『春のいそぎ』(講談社文庫)


春のいそぎ
著者名:立原正秋(著)
出版社:講談社
出版年:2006.04
ISBN :9784062753739


桜が咲き始めた。
もう来週になってしまえば、花びらは舞って、
そして散ってしまうのだろう。
たかが一週間ほどしか楽しめそうにもない。
桜ってなんでこうも散るのが早いのか。

でもこのたかが一週間を結構楽しみにしていたのも事実で、
つぼみが膨らみだしてからは、既に散った後の寂しさがよぎる。
でもぼくが一番思ったのは、寂しさでもなく、儚さでもない。
不毛さ、というような、徒労にも似た感じ。

偶然手にした本書では、春を迎えるところで話が閉じる。
題名である「春のいそぎ」とは、春の支度という意味。
具体的に本作では、捕らわれた滅亡意識からの脱却、そして新たなる出発を意味している。

話の中心は、敗戦とともに自害した父親の姿と滅亡のイメージが結びつき、
知らぬ間に下降線を描くような、不毛な愛に落ちていく一家の話。

「生きることも死ぬこともできない」ようながんじがらめの関係に引きずられ、
滅亡へと緩やかに足は向けられていく。

少々、テーマの重さに対して、心理描写などが軽すぎる感もあるけれど、
だからこそ、よどみなくすらすらと読み進めることができた。
ぼくが生まれた年に亡くなった作家であるが、
そのような古臭さはあまり感じることはなかった。

しかしそれにしても、この読書そのものが不毛ではないか、と苦笑してしまう。
こんな古く、著しく有名でもない作家の本を、読んでいるなんて。

春の陽気に誘われたい。春のいそぎを始めなくてはならない。
桜は慰めてくれるわけではないけれど、また見に行こう。
ゆっくり包まれてみよう。
不毛かもしれない自然のサイクルの強さや頼もしさを見てみよう。
とか柄にもなく外へ出たくなる。
春の陽気だよな。
posted by より at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 立原正秋