2008年03月07日

川上弘美『古道具中野商店』(新潮文庫)


古道具中野商店
著者名:川上弘美(著)
出版社:新潮社
出版年:2008.02
ISBN :9784101292373


文庫読みなので、ようやく読みました。
川上弘美も久しぶりな感じ。

ぼくは、川上弘美といえば、短編の方が好きなので、
一気呵成、というわけではなかったけれど、
物語の調子、とともにゆっくり読み進めました。

骨董品と聞けば、高価で物々しくて、あまり触れることができない。
長い歴史がモノの存在感を強めているから、流れる大河へ思いをはせたなら、
ロマンを感じることもできるかもしれない。

一方で古道具。ありきたりの生活の中、存在を主張することなく、
そこに在る。文鎮とかミシンとか灰皿とか。
手に取って見れば、人の温もりがあって、
感じるものは、誰かの小さな記憶とか印象。

この物語も、じわじわ胸に染みいる日々の断片たちのつながり。
川上ワールドだから、ふわふわさらさらの感触だけど、
手に残る感触は確かなはずだ。

古道具屋さんを営む、中野さん。
そこでバイトするヒトミ(「弘美」を連想してしまうぼくはバカかな)。
同じくバイトのタケオ。
中野さんの姉、マサヨ。

古道具そのもののような四人がいて、
いくつかのエピソードがあって、
その間に、それぞれのぐずぐずの恋の事情があって、
最後にお店がなくなって、たくさんのことが終りに近づいて、
そして、しんみりと懐かしくなってくる。

川上文学は、全体的なものを感じる。雰囲気、空気のような。
心地が良くって、現実から切り離されて、時間が止まったような世界観。
人を駆り立てるような東京のせわしなさはなくって、
地方の寂しい閑散とした感じでもなくって、
あるようでないような、遠い場所。
だから核心というか芯を抜き出そうとしても、意味なくって
ただただ浸る、これがぼくのイメージ。

ただし、やっぱり話の中心というか、
気になってしまうのは、ヒトミとタケオの関係。

川上弘美ってほんとうにダメな男が好きなんだなぁ、とか思った。
世のダメ男を救うような作家さんだが、
作中のダメ男たちは、確かに不思議な吸引力を持っているからすごいな。

ああいうぐずぐずとしてあいまいな恋愛のはなしは、
面白いもんです。もちろん当事者でなく、傍観者としては。
posted by より at 21:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 川上弘美

2007年11月26日

川上弘美『センセイの鞄』(新潮文庫)


センセイの鞄
著者名:川上弘美(著)
出版社:新潮社
出版年:2007.09
ISBN :9784101292359


川上弘美を知ったきっかけが、本書を特集したNHKの番組だったのではないかと思う。
テレビ画面に、綺麗で、大人で、不思議な女性が映っていた。
それも作家だった。驚いた(これは作家に対する偏見ですね)。
何を話していたのかも、どんな番組だったかの覚えていないけれど、
とにかく素敵な人だな、と思ったのだけを微かに記憶している。

この人が書く小説ってどんなものだろう、と『溺レる』を読んだ。
止まらなくなって幾冊も読んだ。
以来、僕にとって唯一といえる、好きな女性作家となった。

でも、『センセイの鞄』はずっと読まなかった。世間で受けすぎていたことも知ってたし(天の邪鬼だから売れるものは好きではない)、またWOWOWでのドラマ化を見てしまい、あらすじも知ってしまっていたからだ。映画のイメージで原作を殺したくなかったのである。

この度、理由は定かではないが、本作は新潮文庫に改めて収録された(2001年平凡社より単行本で、2004年文春文庫で発売されている)。

これをきっかけに読んでみた。

やっぱり川上弘美的世界観に、どっぷり嵌まってしまった。

川上弘美の特徴であるおどろおどろしい幻想的な話でもなく、短編小説でもないが、国語の「センセイ」とツキコが語り合い、目を向ける世界は、さらさらとした透明感ある美しいものである。

唐突ながら比較させてもらうと、この本を読んでいやな感じはしなかったが、川上と似た作風と言われ、先ほど芥川賞の選考委員(僕は芥川賞選考委員の本ばかり読んでいますねぇ。宮本輝、村上龍、池澤夏樹も)に同じく選ばれた(よく気にしてしまう作品なのだが)小川洋子の『博士の愛した数式』に拒否反応示してしまうのはどうしてだろう。

文系出身の小川の書いた純粋な数学の世界、理系出身の川上の古典的国語の世界。
双方、ベストセラーになり、映像にもなっている。
とても似ているようであって、何かが違う。

正直、今も悩んでいるのだが、わからない。
一つ言えるのは僕が川上弘美に魅せられてだいるということだ。

しかも作家としてだけでなく、女として。
(ツキコはもちろん、雑誌などで知る川上の実体は好みではないのだが。)

最後に、一言付言するならば、ドラマは見ていなければよかったなぁ、とおもう。
小泉今日子も、柄本も好きなのは確かだが、それ以上に川上の作品を大事にしたかった。
僕のように想像力が貧困な人間は、映像という視覚的効果に大きく引きずられてしまうからだ。
他方で、あのドラマがなかなか忠実であるように思えたのは、そのような僕の頭の貧しさに由来しているのだろうか。
posted by より at 13:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 川上弘美