南の島のティオ 著者名:池澤夏樹(著)
出版社:文藝春秋
出版年:1996.08
ISBN :9784167561024
始め通勤電車で読んでいたのだけれど、もったいなくなって
家でゆっくり読むことにした。
それくらい世界観が強い、というか読者を南の島へと連れてっていくものだから、
すぐさま気持ちを切り替えて仕事、などという無粋なことをしたくなかったのである。
ゆっくりとした時間の中で、休暇でも取ったように、
強烈な青色の海と空に囲まれた南の島へと旅させてもらいたかったのだ。
具体的には、南の島でホテルを経営する一家の息子、ティオが
様々な人々と交わり、体験した出来事をまとめた連作短編集。
第41回小学館文学賞受賞していて、
児童文学という位置づけになるらしいけど、
大人もじっくり楽しめる透明で優しい作品。
瑞々しい感性をもった子供が楽しむのもいいかもしれないけど、
いい大人が忘れかけた感覚をくすぐられてもいいではないか。
個人的には、結局大人のせいか「ホセさんの尋ね人」がよかった。
よくいる観光者のように思われたホセさん。
けれども彼はある明確な目的をもって、島へとやってきたのだった。
その目的とは、40年も前この島で一緒に暮らしていたものの、
別れ別れになってしまった女性=マリアを探す、ということ。
ティオとマリアを探し始め、ホセさんは、
とうとう彼女がどのような生活をしていたのか突き止める。
マリアはひたすらホセさんを待っていた。
ホセさんはフィリピンで奥さんも子供ももうけてしまっていたけれど、
マリアは、ずっとホセさんを待っていて、一人寂しくその生を終えてしまっていた。
それを知ったホセさんの目からは一筋の涙が零れたのだった。
ホセさんのそんな姿を見て、14歳のティオはこんな風に思った。
ぼくはただ人にはいろいろな人生があって、みんなそれぞれに誠実に生きようとしているのだということを、少しだけのぞき見たように思った。(p.167)
君はいい大人になるよ、今27にもなったぼくが忘れていた、
いや気づいていなかったことだもの、うんうん、
とか思ったぼくでした。
少々ベタな展開だけども、こういう話弱いんだよなぁ。
でも「ホセさんの尋ね人」はむしろ例外的な大人の物語で、
本作の基本は、子供の目線を大事にした、不思議な出来事ばかりで、
それでも一生懸命だったり、素直に受け入れられていくような世界観。
特に、受け取った人が必ず訪れたくなる絵はがきがでてくる
「絵はがき屋さん」などは、とっても素敵な不思議感。
せわしなかったり、きゅうきゅうだったりする現実から
抜け出したくなった時や休みたくなった時に、
手にするのもいいかもしれないです。
