2007年09月15日

大岡昇平『野火』(新潮文庫)


野火
著者名:大岡昇平(著)
出版社:新潮社
出版年:2007.09
ISBN :9784101065038


いやぁ、へこむ、へこむ

正直、買ってから半年くらい眠っていたのですが、
NHKスペシャル(これも暫く眠っていた)「硫黄島」関連の映像を見て、
その連想から一気に読んでみました。

NHKスペシャルに出ていた、生き証人の方々の壮絶な体験は、想像を絶するものだ。

支援のない孤立した兵士たちは、40℃にも達する地下の穴倉で、ひっそり息を潜め、死を待っていたのだという。食べるものもなく、しかし、死臭ばかりが漂う極限状態で、思考はストップしてしまうのだそうだ。
口をついて出る言葉は、「理性など…」吹っ飛んでしまう、ということ。

目の前で死にゆく人間・そしてその度に増えていく死体の山々。

硫黄島とは異なるが、フィリピンでの戦時下の放浪を描いたのが、『野火』である。

具体的内容は触れないが、硫黄島の生き証人が言っていたような、理性が働かない極北の地点で、人間はいかに人間としてあるべきか、を問う重いテーマの頭の痛くなる本である。

仲間でありながら、食べ物をめっぐって争いあうこと。
やむえない場合でも、人を殺してしまうということはいかなることか。
そして、人肉を食べることは人間に許されることか?

これは一つの大きな問いであり、答えではない。
解かれてはならないものだと思う。
人間が戦争を起こしてしまうことが必然的なものであって、
たとえまた繰り返し同じことをしてしまうとしても、
問われ続けなくてはならないし、
そういうことを繰り返さないためにも、
読み続けられなくてはいけない作品なのだろう。

突然であるが、僕は、安易な平和思想を
金科玉条のごとく唱える楽天的左翼は好きではない。

しかしながら、当時の人の気持ちを勝手に慮って、戦争を肯定するような、古臭い頭をもった人はもっと苦手である。
(あくまで僕の好みなのであしからず)

ただ一つ言えるのは、戦争はもうしてはいけないと思うのだ。
少なくともあのような状況は人間的ではない。

「人間」を押し進めれば押し進めるほど、野蛮になっていくのかもしれないけど、
僕は『野火』の世界には行きたくないと思った。
というか無理だよ、あれは。

大変陳腐な締めだけど、今の時代の僕は
本当に幸せなんだなぁと思った。
もちろん、これで毎日の煩瑣な悩みが消えるわけでもないし、
またウジウジ悩みまくているのだろうけど。
posted by より at 23:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 大岡昇平