2008年04月10日

宮本輝『私たちが好きだったこと』(新潮文庫)


私たちが好きだったこと
著者名:宮本輝(著)
出版社:新潮社
出版年:1998.11
ISBN :9784101307121


ひょんなことから、男二人と女二人の共同生活が始まる。
それぞれの個性を保ちながら、相手を思いやりながら、
かけがいのない時間が流れていく。

四人とも、他人を思いやる傾向が強く、
いつの間にか、経済的だったはずの共同生活は、
他人を助けるための借金だらけのものとなっていた。

もちろん男と女だから、すったもんだで、
くっついて離れるわけで、そんなどこか既視感を覚えてしまう物語。
民放のドラマでやっていそうな。

ただし、ささいな嫉妬が大きく膨らんでしまったり、
借金や仕事での苛立ちが恋人に対する態度に出てしまったり、
リアルな感覚があったり、
妙に残る一言があったり、400頁近い長編であるが、
会話を中心とした文章だから読みやすいこともあって、
苦痛になることはなかった。

ロバという登場人物が、恋人の浮気に直面していっていたこと

何かの映画のセリフに、時は、解決してくれるんじゃない。時は、忘れさせてくれるんだってのがあったけど、俺は、時ってのは、忘れさせてくれる力を持つと同時に、やっぱり、何かを解決する力を持ってるって思うんだ(p.259)


そうだよね。時って忘れさせて、解決もしてくれるよね、とおもいながら、
彼らの甘酸っぱい青春劇を読んでいました。
青春って言葉は気恥ずかしいし、いい話なわけでもないが、
やっぱり自分に重ね合わせて何か考えてしまうなにかです。
男女四人の共同生活なんてあまりに現実離れしているけど、
まぁ、悪くもないかと思うのでした。
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2007年10月31日

宮本輝『星々の悲しみ』(文春文庫)


星々の悲しみ
著者名:宮本輝(著)
出版社:文藝春秋
出版年:1984.01
ISBN :9784167348014


なにか宮本輝に対して評価を下したいらしく、しつこく彼の作品を買い求めてしまった。
正直、『流転の海』やら長編は読む気がしなかったので、短編集。
某SNSでの評判がよかったので、購入。

通勤電車の中で、さっと読んだのだが、
結論…
「あんまり…」
川三部作が予想を裏切り、なかなか読ませた小説であったから、期待してページをめくるが、すぐ眠くなってしまう。

なにか可能性は感じるのだが、いまいちなんです。僕にとってはね。

唯一、気になったのは、「小旗」。

これもいつもの彼の経験が色濃い作品で、親父が死んでしまう話なのだが、ほとんど彼自身の経験に符合する。もちろん細かいところはほとんどフィクションであろうが、主人公が50歳ころにできた子供であったり、おやじが女癖悪いのも、一致している。

それゆえにかやっぱり面白い。川の三部作にも共通していることなのだが、彼の半生について書いてるものになると、「リアル」なのか面白くなってくる。つまり、悲しいというか、切ない話になってくる。

あとここからは僕自身の嗜好についてだが、
情けない男の話が良い。

映画でも一度は成功を手にし、強い立場にあったものが凋落していく中、意地になって踏んばる姿、そして最後は受け入れていく姿に弱いのだ。
映画でいえば、アル・パチーノの郷愁である(勝手なイメージなので伝わるかどうか…)。

彼の親父はそんな情けなかっこいい男で、最後は本当に情けない姿で(作中)精神病院で息を引き取るのだが、そういう姿は切ない。

そう、切ない。

ただ、アメリカの映画は、最後カッコいいところを見せて終わる。しかし、宮本輝の親父は最後まで情けないおやじのまま果てていく。

なんだかせつない気持ちになれのは、いい作品であることを意味する(これも勝手な感想)。

ああ、まだ、宮本作品を読まなくてはいけないような気がしてきた…
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2007年10月25日

宮本輝『道頓堀川』(新潮文庫)


道頓堀川
著者名:宮本輝(著)
出版社:新潮社
出版年:1994.12
ISBN :9784101307107


前言撤回。
我慢できずに読んでもうたわ、などえせ大阪弁を使いたくなるほど一気に読み干しました。

道頓堀川を舞台に、喫茶店のマスター、両親を失った学生とその二人にまつわる人々のお話なのだが、前回読んだエッセーを読む限り、宮本自身が色濃く反映されているのは、上記にあった両親を失った若者であろう。確か、親父のかつての知り合いに突然街で声をかけられ、「ツケ」でおごってもらうという話は、実際宮本の体験談であったはずである。

(だから?)その若者=邦彦の話は、川三部作の主人公として、それまでの二つの作品との連続性を無理やりなら見いだせる。両親を失ったゆえに、心の奥に広がる孤独感は少なくとも三作品に通底するものだ。

しかしなにより、喫茶店のマスターである武内の話がなんとも切ないのだ。
自分を裏切り、他の男とでていった妻の鈴子を強く蹴り飛ばし、それが原因で鈴子の命は失われる。その晴らすことのできない罪悪感にさいなまれながら、その一方で裏切った妻を許せることもなく、ひっそり生きていく。この業深い武内の話がべたであるが、一番気に入ってしまった。
まだ正直判断付かない部分が多い。でも、なかなか読ませるというか、ぐいぐい入り込んでしまうような作品でした。(だからといって僕にとって文学的価値があるというわけでもないが)ほかの作品を読んでみよう、と思ってしまったのでした。前と言ってること違うけど。
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2007年10月20日

宮本輝『螢川・泥の河』(新潮文庫)


螢川,泥の河
著者名:宮本輝(著)
出版社:新潮社
出版年:1994.12
ISBN :9784101307091



二十歳の火影 新装版
著者名:宮本輝(著)
出版社:講談社
出版年:2005.10
ISBN :9784062752206


宮本輝を読んだのは十代以来。理由はわからぬけれど、『錦繍』を読んだ。書簡形式の大人の話で、面白いのかよくわからなかった。
それから、宮本輝といえば、あまり鬼気迫るようなものはなく、あまり深みのない作家であって、僕の好む「純文学」でもない、という勝手な先入観のもと離れていた。
そして偶然今年、Yonda?新潮文庫の100冊で、なんとなく手にしたのがきっかけでこの本を読んでみた。
結果から言えば、
「引き込まれた」
というのが正直な感想。読んでいておもしろい、とか自分の何か深いところに触れた、とかいうわけではない。でも先を読みたくなるようなお話。

「泥の河」は大阪の場末、「螢川」は富山。それぞれの舞台で、土俗性というか、土地の匂いを感じるような作品である。だから最初読み始めは、NHKの朝の連続ドラマを見ているような感覚に陥った。また子供が主人公というのもそんな感覚を助長したのか、優等生的、教科書的作品なのか、と考えつつ読んだ。

けれども、「泥の河」で主人公と仲良くなる廓船の家族の母親が「パンパン」とわかるところあたりから、なにか違った雰囲気になってきた。
確かに宮本輝の作品(この作品しか知らないくせにくくってしまうのはどうかと思うけど)は、ほのかで抒情的で、温かい愛情が感じられる
けれども、「パンパン」やらなにか世の目を背けたくなるような部分も描かれているも確かだ。
前者だけであれば、感動させてくれる優等生的な小説で終ってしまうかもしれないけれど、後者が見え隠れするのが、ちょっとしたスパイスのようでいいのかもしれない。
ただ、全般的にうまくできすぎている感じで素直におもしろい、と言いきれないのが僕のひねくれたところだろうか。

全然関係ないが、以前小川洋子の『博士の愛した数式』を読んだ時にも同じような感覚であった。感動させられてしまう自分がくやしい、というような。

そんな風なひねくれた感想を持ったため、宮本輝がどんな人か気になり、
彼のエッセー『新装版 二十歳の火影』(講談社文庫)も併せて読んでみた。意外というか、納得したというか、勝手な想像でいえば、彼は格好つけていなくて、優等生でもなくて、とても親近感のわける人なのではないか、と思った。あと作品からも強く感じられるような懐古趣味的なことも分かった。

飛行機が大嫌いで、芥川賞受賞の際はじめて飛行機にいやいや乗った彼であったが、父のこと、宇宙のことに考えを廻らしていた。しかし、なぜだか文章のオチとしてスチュワーデスの容姿に目を奪われたことで締めくくる。全く浮世離れしていなく、下品な話を書いているのをみると、小説の中の暗い部分も納得できたようであった。

もちろんエッセーは真面目な話も多く、小さい頃の想い出話あたりは「珠玉のエッセイ」(紹介文から)であるのであろうが。

いちおう『道頓堀川』(新潮文庫)も買ったのだが、すぐに宮本輝の作品をたくさん読みたいわけではない。ゆっくり気が向いたら読んでみたいような、そんなはっきりとしない評価となってしまった。
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