2008年01月27日

手塚治虫『牙人―きばんど―』(秋田文庫)


牙人
著者名:手塚治虫(著)
出版社:秋田書店
出版年:1999.11
ISBN :9784253174770


本書は、アフリカまたは野生の動物を取り上げた手塚作品を集めたもの。

アマゾンでピューマに育てられた少年の人間社会における活躍を描く「牙人」。
古代遺跡で生きる美しい野人アーリイと
人間社会で生きるチェンとの幻想的な交わりを描いた「さらばアーリイ」。

そしてもう一つ「大地の顔役バギ」が収録されている。
人間に母を殺され、復讐に生きるジャガーのバギと
かけられた懸賞金を狙って、ジャガーを執拗に追いかけるマリオ。
お互いの命を狙いあうのだが、その争いの中で、
二人(一人と一匹)の間に友情に似た感情が生まれてくる。
そんな話。

(遅くなりましたが)帯には
「文明という名のもとに、忘れられたものとは!?世の光と影を巨匠が描く。異彩のヒューマンメッセージ」

と書かれています。まさにその通りで、文明から離れ純粋そのままに生きる人間や動物を描くことで、時に非情で残虐な人間の影の部分を、目をそむけたくなるような鮮明さをもって、あぶりだしていきます。

ぼくは、これまでも手塚の作品に関して、まっすぐなヒューマニズムと表現することがありましたが、この作品においては解説の中島が指摘するように、ヒューマニズムに対して率直に、異を唱えています。例えば、手塚は「大地の顔役バギ」で殺されるバギの母の口を借りて、人間の持つ残忍な側面を、厳しく断罪しています。
人間という生きものは何の役にも立たないわるいものなのよ
私たちがしあわせにたのしくくらしているのを なさけも
ようしゃもなく殺しまわって自分たちのものにしてしまう生きものなのよ(p.145)

人間は自然に生きる動物や植物などの生きものを、自分たちの都合で破壊してしまいます。
(今となっては少々図式的ともいえますが)文明と文明以前の対照的な姿を映し出すことで、手塚は、そうした「人間」を痛烈に批判しているのです。
ただし、これはヒューマニズム=人間中心主義の批判であって、いわゆるhumanismに反するものではありません。むしろ手塚の作品は、人間を真に「人間」たらしめている本性としての「人間」性とはいかなるものか?と、「人間」という枠組みに囚われてしまったわれわれに対して、再度切実な問いを提示しているかのようです。つまり本当のヒューマニズム(そんなものが先験的に存在しているかは知りませんが)を強く強く希求しているのではないでしょうか。とても優しいヒューマニズムを。

バギとほのかな友情を通わすマリオは、傷を負った際に助けられた老人に、中国人か日本人なのか問われ、答えました。
「おい若えの…お前日本人か中国人か」
「おれは人間だ」(p.180)


これだけ読むと人間と動物、文明と自然、などがとっても大きなテーマになっているようですが、物語に散りばめられている友情や恋も素敵な描かれ方をしています。
とにかくぐぐっと胸に迫る作品たちです。
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2007年12月03日

手塚治虫『走れ!クロノス』(秋田文庫)


走れクロノス
著者名:手塚治虫(著)
出版社:秋田書店
出版年:1999.10
ISBN :9784253174695


表題作、「走れ!クロノス」は馬と少年の話。

馬の顔をした宇宙人が、地球上の家畜のの馬に知性を与えた。その馬=クロノスは、宇宙人の事故によって足が動かなくなった少年の足となり、また友達となり、友情をはぐくむ、そんな話。

馬の顔をした宇宙人。言葉を話して、体が化け物のように大きくなったクロノス。冷静に考えればバカバカしい設定であるには違いないのだが、気持ちが入っていくのは手塚さんの力に他ならないだろう。
手塚さんはロボットを描くことが多かったけれど、この話のように、動物に話をさせることも多い。そしてまたそういう奴に限っていい奴だったりする。
慾にまみれた人間なんかより、よっぽどロボットや動物の方が優しく、強く、愛情をもった存在なのだ。
そんなところが、哀しくも微笑ましくて、とても好きだ。

加えて本書には「ぐうたら千一夜」という文字通り、ぐうたらな少年の話も入っている。
これもどこかで見たような手塚の好きな、少々抜けてる青年の話だが、いつも通り、素敵な話ばかりだった。ぐうたらはぐうたらだけど、気持ちはまっすぐで、優しくて…
また馬鹿みたいな感想になったが、手塚先生のキャラクターは全く飽きさせない。
いい奴、ばっかりだ。
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2007年11月26日

手塚治虫『W3(1・2)』(秋田文庫)


W3 1
著者名:手塚治虫(著)
出版社:秋田書店
出版年:1995.03
ISBN :9784253171229


手塚作品買ってきました。すぐ読みました。
手塚作品は大人向けのものから子供向けまで、あるわけですが、今回はSFものです。

手塚作品のならば何十冊と読んでいるのですが、まだ『W3』は読んだことがありませんでした。
アニメ化されていたのも、何となくテレビ番組で見かけて知っているのですが、あまり子供向けだったり、SFものだとつまらないかぁ、と思って未読でした。

しかし、もうほとんど有名なものは読破してしまっているので、読んでないものの中から選んだのですが…
結果、いやな予感が的中して、すごくつまらなかったです。

『海のトリトン』も『バンパイヤ』も『どろろ』も全部面白かったのに、どうしてつまらなかったんだろう。

(僭越ながら批評するなら)やっぱり主人公、ヒロインともにあまり魅力的に描けていない気がしたのかな。大体ヒロインの主人公に対する一途な思いや健気な献身が、心を打つのが手塚作品の常道である(勿論今回もウサギのボッコは主人公に対してべたぼれで、献身的です)。また主人公も天才的でありながら、人間くさかったり、愛情深くて、魅力的なのだが、今回はそれが、うまくいってなかった気がする。
なんでかはよくわかりません。そう、感じたのです。
あと本筋のSFとしてのW3の活躍やらもいまいちで、あまり面白くなかったなぁ。
なんでだろ。
ほんと疑問ばかりで消化しきれません。

こんな風に手塚治虫の作品を書いても仕方ないし、自分も気分が悪いので、書くのをよそうと思いましたが、あくまで読書の記録ということで書き記しました。
だけど、手塚作品のひとつだから、読まないという選択肢はないはず。
読みましょう、手塚先生の作品なんだから。
posted by より at 01:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 手塚治虫

2007年11月18日

手塚治虫『日本発狂』(秋田書店)


日本発狂
著者名:手塚治虫(著)
出版社:秋田書店
出版年:1996.03
ISBN :9784253171861


僕は20歳を超えたあたりから、めっきり漫画を読まなってしまった。
でも、中学生から読み続けていた手塚治虫の漫画は止められなかった。

本作は、一度臨死体験をしたために、「あの世」に近い主人公が、ひょんなことから幽霊と出会い、恋をして、「あの世」と関りをもってゆく話。最後は、幽霊が氾濫して日本が混乱に陥ってしまったりもする。
(解説によると、作者自身も述懐しているそうだが)「支離滅裂」というかしっちゃかめっちゃかの話で、ストーリー的には混沌としている。

だが、やっぱり面白いのである。

彼岸と此岸の冒険譚である一方、もう一つの主題は、主人公の一途な恋物語なのだが、結局二人の思いは、死後の世界で完結することはない。
愛する二人は、生まれ変わり、再び出会うことを祈って、話は終わる。
そんな二人がなんとも切ないのは、その希望は果されるものなのか分からないし、そしてそんなもの信じられない僕がいるということだ。

くやしいけれど、解説者の津原さんの言葉は、きわめて雄弁である。

今にして思う。たぶん、切なすぎたのだ。予め結ばれえぬ恋人達の、未来への、来世への、夢の国への悲願は、少年期の僕には直視するに辛かった。


そう、切なすぎるけど、そんな世界を信じていたかった。

こんな風に、手塚治虫の作品は、いつも愛で満ちていて(陳腐な表現なのだが、本当にそう思う)、その世界観にどっぷり嵌まりこんでしまう。
だから一冊一冊、大切にじっくりと味わいたいなぁ、と思わせるのである。
posted by より at 01:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 手塚治虫