愛 改版 著者名:井上靖(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.04
ISBN :9784041216385
いつも通り本屋をねり歩いていると、新刊棚にあった渋い作家の名前が、目にとまった。
名前は知っているけど、ぼくの苦手な歴史ものを書く作家だから、
疎遠だったけれど、薄っぺらいし、歴史ものでもないようだから、
買ってみた。
面白い…。というか大変感動してしまった。
『愛』という本の題名は、最初からつけられていたものではなく、
彼の「愛」にまつわる小品をまとめたものが本書。
「結婚記念日」、「石庭」、「死と恋と波と」の三篇。
特に「結婚記念日」がいい。
妻を失ってから、再婚の話を持ちかけられる主人公は、
なかなか頷くことができない。
それは、妻に対する静かな思いがあったからだった。
おそらく自分は今後何年経っても、新しく妻を迎えるという気持ちにならないのではないかと思っている。それは亡き妻の加奈子に対する愛情のようなものである。愛情のようなものというのは、彼自身はっきりと愛情だとは思いきれぬふしがあるからである。実際考えてみると、加奈子との五年ばかりの生活を振り返って、自分は対して加奈子を愛していたとは思わない。(p.9)
こんな始まりだ。
そして彼は、今亡き妻との旅行を思い出す…
愛情は、ドラマや映画のように常に燃えたぎっているようなものでもない。
夫婦ともなれば、尚更だ。いや、当然だ。
そんな夫婦の静かな、そして秘かな思いに触れたとき、
ジーンときた。
ジーン
ふと、人を愛しくなるような気持ち。
それは一緒に星を眺めているようなロマンチックな場面でもいいのだろうけど、、
惨めで悲惨な時でも感じ得るものなのかな、とも思う。
心の根深い見えないところから、滲み出てくるような感情を。
ぼくはどうしてこうも昭和の設定に弱いのだろうなぁ。
