春のいそぎ 著者名:立原正秋(著)
出版社:講談社
出版年:2006.04
ISBN :9784062753739
桜が咲き始めた。
もう来週になってしまえば、花びらは舞って、
そして散ってしまうのだろう。
たかが一週間ほどしか楽しめそうにもない。
桜ってなんでこうも散るのが早いのか。
でもこのたかが一週間を結構楽しみにしていたのも事実で、
つぼみが膨らみだしてからは、既に散った後の寂しさがよぎる。
でもぼくが一番思ったのは、寂しさでもなく、儚さでもない。
不毛さ、というような、徒労にも似た感じ。
偶然手にした本書では、春を迎えるところで話が閉じる。
題名である「春のいそぎ」とは、春の支度という意味。
具体的に本作では、捕らわれた滅亡意識からの脱却、そして新たなる出発を意味している。
話の中心は、敗戦とともに自害した父親の姿と滅亡のイメージが結びつき、
知らぬ間に下降線を描くような、不毛な愛に落ちていく一家の話。
「生きることも死ぬこともできない」ようながんじがらめの関係に引きずられ、
滅亡へと緩やかに足は向けられていく。
少々、テーマの重さに対して、心理描写などが軽すぎる感もあるけれど、
だからこそ、よどみなくすらすらと読み進めることができた。
ぼくが生まれた年に亡くなった作家であるが、
そのような古臭さはあまり感じることはなかった。
しかしそれにしても、この読書そのものが不毛ではないか、と苦笑してしまう。
こんな古く、著しく有名でもない作家の本を、読んでいるなんて。
春の陽気に誘われたい。春のいそぎを始めなくてはならない。
桜は慰めてくれるわけではないけれど、また見に行こう。
ゆっくり包まれてみよう。
不毛かもしれない自然のサイクルの強さや頼もしさを見てみよう。
とか柄にもなく外へ出たくなる。
春の陽気だよな。
